日本語学校の宿題を見ていたとき、印象に残っていることがあります。「本を読みます」という文を、「~てください」の形に変える問題でした。子どもは、「よみてください」と書いていました。

文字を見て、文法の形を考えた結果です。そこで私は、「自分で書いた文を、声に出して読んでごらん」と言いました。

子どもは、「よみてください」と読んでから、すぐに、「あ、よんでくださいだ」と、自分で直しました。

なぜ「読みて」ではなく「読んで」になるのか。文法の決まりを完全に説明できたわけではありません。でも、声に出してみると、「よみてください」は聞き慣れた日本語とは違うと分かりました。そして、これまでに何度も聞いてきた「読んでください」という言い方が、自然に出てきました。

子どもは、日本語の文法をすべて理解しているわけではありません。それでも、耳で聞いてきた日本語が、その子の中に残っていました。

私はそのとき嬉しくなりました。小さい頃に話しかけたこと。絵本を読んだこと。日常の中で、同じ言葉を何度も聞かせたこと。その一つひとつが、あとから学ぶときの助けになっていたのです。

すぐに日本語で答えてくれなかったからといって、聞いていなかったわけではありません。その場で使わなかったからといって、すべてが消えてしまったわけでもありません。子どもの中に入った言葉が、ずっとあとになって、新しい学びとつながることがあります。

『ママの日本語は、ちゃんと届いている』

がんばりすぎない日本語教育と絵本の読み聞かせについて、私自身の体験を交えてまとめました。